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水と生命

生命とは何か? 49 インド人と水

第一節 『インド人と水』
インドの人にとって水とは神として存在していた。『リグ・ヴェーダ』には、パルジャニア(雨神)、マルト神群(暴風雨神)、アーパス(水の女神)、ナディー(河神)、サラスヴァティー(河)、アパーム・ナパート(水の子)などの水に関係する賛歌がある。どのような賛歌があり、インド人と水の関係をみていく。

① パルジャニア(雨神) 『リグ・ヴェーダ その一(五・八三)より』
二 彼は樹木を裂き倒し、また羅刹を殺す。一切万物は大いなる武器(電光)もつ[神]を恐る。罪なき者すら、牡牛の力あるより逃亡す、パルジャニアが雷鳴をとどろかせて悪行者を殺すとき。
四 風吹き起こり、電光ひらめく。草木は芽生え、天は[水に]あふる。栄養[の液]は一切万物のために生ず、パルジャニアが種子をもって大地を育むとき。
五 その掟に大地は低く身をもって大地は低く身をかがめ、その掟蹄あるものは跳躍し、その掟に草木はあらゆる形を現ず。かかる汝は、パルジャニアよ、われらに大いなる庇護を与えよ。
雨雲・雷雨を意味する名をもつこの神は、雷鳴・電光・疾風を伴う降雨の現象を支
配し、樹木を倒し、悪魔・悪行者を殺す。雨が地上にもたらす慈育の面を反映して、
生物・無生物両界の主宰者と仰がれ、植物の胚種を作ち、人間・家畜の増殖を司り、
爽快・豊穣の恩恵を施す。(52)
② マルト神群(暴風雨神) 『リグ・ヴェーダ その三(五・五七)より』
四 マルト神群は、風を打倒力とし、雨を美服とし、双子児のごとく互いに酷似し、美々しく飾らる。黄色の馬を持ち、汚点なく、勝れたる威力に富み、その偉大によりて天界のごとく広大なり。
五 [彼らは]多くの水滴を有し、輝く装具をつけ、いみじき賜物に富み、恐るべき外観をもち、取り戻さるることなき恩恵を施す。
ルドラの子と呼ばれ、マルトの特性は光輝・美観・偉大・激烈・強力に要約され、
美しく武装した若い勇士として描出され、その空界の進行は彼らの顕著な特徴をなし
ている。遊戯者・音楽家・舞踏家である。人に対して敵意なく、特に雨水による恩恵
に富み、医薬を施す。(53)

③ アパース(水の女神) 『リグ・ヴェーダ その一(七・四九)より』
一 海を首長とし、[天上の]大水の中より、[アーパスは]身を清めつつ、休むことなく来る。そのヴァジュラ(電撃)もつ牡牛・インドラが道を拓きたる、かかる女神アーパスは、ここにわれを支援せよ。
『リグ・ヴェーダ その二(一〇・九)より』
一 アーパスよ、汝らは実に爽快ならしむ。かかる汝らはわれらを滋養の力にあずからしめよ、[われら]大いなる歓喜を見んがために。
二 汝らの最も吉祥なる液、われらをしてここにその分前を得しめよ、愛情ある母親が[乳を与うる]ごとく。
三 われら彼(庇護者)の意に適わんことを、その住居のために汝らが[われらを]活気づけ、アパースよ、また汝らがわれらを生む[彼の意に]
四 われらが幸福のために、女神アーパスは、助力のため、飲用のためにあれ。[アパースは]幸福と繁栄とをわれらに注げ。
五 好ましき[財貨の]主宰者、諸民を支配するアパースに、われは医薬を乞う。
七 アパースよ、医薬を授けよ、わが身体のために掩護物として、また[われ]長く太陽を見んがために(長寿のため)
八 アーパスよ、運び去れ、わが身のいかなる過失をも、またはわが犯したる欺瞞をも、あるはまた偽りの誓いをも。
最も慈愛に富む母といわれ、宇宙の母であり、妻であり、生物・無生物を産む。そ
の浄化力は物心両面にわたり、すぐれた医療の功力を発揮し、人間に息災・長寿・財
産・援護を授ける。(54)

④ サラスヴァティー(河の歌)『リグ・ヴェーダ (七・九五)より』
二 諸川の中にただ独り、サラスヴァティーはきわだち勝れり、山々より海へ清く流れつつ。広大なる世界の富を知りて、ナフスの族(人類)にグリタと乳といだしきたれり。
多くの河川も神格化されている。サラスヴァティーの名は、本来「水に富む」を意味し、後世ではサラスヴァティーは、女神ヴァーチュと一致され、女神として弁財天の性格を備えるにいたっている。(55)
このように、水に対し、荒々しく生命を育むもの、富をあたうるものとして賛美している。水を神としてみている。日本も同じであるが、このようにはっきりと様々の水に関わる自然に対し、賛美し歌うことはほとんどない。これらの歌から古代のインドの人の躍動感を感じる。インドでは、古代からヒンドゥー教徒がガンジス河において沐浴し、死後はこの河の傍らで火葬し、その骨を流すという伝統がある。水の聖なる力・再生力に対する信仰が強いことと、水と自然と共に生きてきたことがわかる。

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